イケメンカフェに迷い込んだ話【前編】
1ヶ月以上前になるだろうか。私は友人と一緒に、うっかりイケメンカフェに行った。で、結果から言うと、かなり面白くて勉強になった。
その日は2人で居酒屋を3軒くらいハシゴして、ちょっと酔っ払っていた。直前に行った四文屋の酒が馬鹿みたいに濃かったのだ。馬鹿みたいな酒を飲みながら、なにかのきっかけで「この近くにある"イケメンカフェ"ってなんだろう?!」「ちょっと気になるよな?!」と盛り上がった。
逆に言うと、酔っ払ってなければ行くことはなかったかもしれない。男の人に接客されるのとか、なんか怖いし。ましてやイケメンらしいし。慎ましく暮らしてきた我々には明らかに縁がない場所だった。しかし、四文屋のねぎ塩レバーがうますぎることも相まって、テンションが上がってしまったのだ。
その勢いだけで駆け込んでみることが決まった。
. . .
「いらっしゃいませ!」
ドアを開けたら、コンセプト通りイケメンが、笑顔で出迎えてくれた。
ラストオーダーはギリギリ、滞在時間も30分だけ、との事だったが、なんでもイッス!!と伝え、入店させてもらった。
店内に足を踏み入れると、お客の女性がたくさんいた。みんなイケメンを見る目がすごくキラキラしていて、この人はワタシのしゅきぴナンダ♡みたいな空気が蔓延していた。ちょっと初めて見る光景だったから、うまく形容できない。なんというか、彼女らは「イケメンに会いにきた」お客たちばかりだった。いやコンカフェだから会いにくるのは当たり前のことなんだろうけど、誰にも会いに来ていない我々は、まずその圧にやられた。
普段、女性がたくさんいる飲食店に行くことなんて殆どないので、変に緊張した。私が普段行く飲食店は日高屋とか松屋だから、だいたいお客はおじさんばかりなのだ。職場にいらっしゃる方も、お嬢様よりもご主人様の方が圧倒的に多い。
こんなピンク色の念が充満する空間に来てよかったのか。不安な気持ちを拭いきれぬまま、案内を待った。
ソワソワしていると、イケメンのAさんがシステム説明をしにきてくれた。彼はすごく顔が整っていて、穏やかな雰囲気を纏う、女性に可愛がられそうなイケてるイケメンだった。(あと何回イケメンという単語が出てくるのだろう。イケメンがゲシュタルト崩壊しそうだな。)
Aさんはチャージやドリンクの価格を教えてくれた。普通のカクテルは800円、特別なオリジナルカクテルは1000円かかるとのことだった。ぼーっと説明を聴きながら、ふとメニュー表に目をやってみた。
み…魅惑のイケメン気まぐれ水?!?!?!?!
我々は見た瞬間に爆笑してしまった。なんなら、声に出して何回か読んだ。
だって、えーーーー!!オリジナルカクテルを、気まぐれ水って形容することある?水って。しかも、魅惑の…。そんな風に呼ぶことも、あるんですね。
たしかにコンカフェに行くと、そのコンセプトに合ったメニュー名になっていることがある。たとえばライブリクエストが「輪舞曲(ロンド)」と呼ばれていたり、キャストドリンクが「絆」って呼ばれていたり。そういうメニューは散々見てきたけれど、やはりどれもファンタジーで可愛らしかった。
しかし「魅惑の気まぐれイケメン水」は、脳にダイレクトアタックすぎたのだ。イケメンがコンセプトだとこうなるんだな、と、ちょっとしたカルチャーショックだった。
で、ウケたら負け、みたいなとこあるじゃないですか。私も友人もそれ(魅惑のイケメン気まぐれ水)をお願いすることにした。Aさんは我々の好みをちょっと確認したあとに「待ってて下さいね!」と言いながら、さらりと伝票に「オリカク(A)」と記入した。そのまま作りに行ったようだった。
これ、コンカフェで働く方やオタクの方には分かってもらえると思うのだが、名前を書くタイプのリクエストメニューは、スタッフにマージンが発生することが多い。ので、スタッフは誰に作ってもらうかをお客様に確認することがほとんどだ。
にもかかわらず、Aさんは我々に「誰に作って欲しいですか?」みたいな確認もしないまま、自分の名前をスッと書いて作りに行った。
でも、こういうしたたかさは、嫌いではない…。この時点で、我々キモオタ達からのAさんに対する評価は高かった。
「はじめてきたお客のカクテルを自分のものみたいな顔で作りに行くのはかなり良い」「あんなに穏やかそうな顔をして、しっかりがめついのはかわいい」「そういうガッツは大事だよね」
そんな話をしながら、提供を待った。魅惑のイケメン気まぐれ水の到着を…
後編(明日)に続きます。