幸福な猫

幸福な猫

新宿のメイドバーでお給仕する月詠みことのブログです。

釘と警鐘

アイドルは人に愛されなきゃいけない仕事だと聞いた。アイドルになる直前のことだった。
人から愛されるための努力をしたことがない私には到底難しくて、自分なりに長い時間をかけて試行錯誤した結果「人を愛してみようかな」とふんわり決めた。してもらいたいことはした方がいいと思った。人はそういう生き物だから。ライブアイドルはコミュニケーションと絆が不可欠なように見えた。


愛される努力も愛する努力もしたことのない私には難しかったが、それが一番向いてるような気がした。わたしは人のために泣いたり喜んだりすることができるが、そのたびにものすごく消耗するから、なるべく感情を動かさないように生活していた。封印していた感情、諸刃の剣、この先の苦悩も見えた、しかし分かっていてもやるしかないのかもと思った。


アイドル卒業後も、そのスタンスのまま今に至る。自分なりに一歩踏み込む努力は、今もしている。正直いつ自分の気持ちが擦り切れてしまうのかわからない。こう考えはじめたときから 頭の中に見えない砂時計がずっと用意されていて、ぬるぬると砂を落とし続けながらわたしを見張っている。少し隙を見せるたびに、心がゆっくりとすり下ろされる。
わたしはいつなくなってしまうんだろう。たまにものすごく不安な気持ちになる。


自分の大切にしたいことも守れなくなるようなお給仕は、私がメイドでいる意味がないから絶対にしない。しろって言われても、したくない。メイドカフェが本当に好きだから頑張れるけど、好きだからどうしても妥協ができない。自分にとって大きな覚悟だけど、勝手に背負ってるだけ。お客さんにもスタッフにも、だれにも理解しろなんて思わない。


今の環境は、お客さんが優しい人たちばかりで、たまに忘れそうになる。自分が消費物であることを。忘れたころに思い出しては、もうひとつ前に進む。